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地方中小企業における事業承継:M&Aと相続の比較

日本の地方においては、高齢化や人口減少が進行する中で、中小企業の事業承継がますます重要な課題となっています。特に地方の企業では、後継者の確保が都市部以上に難しくなっており、事業の存続そのものが地域経済の安定に直結します。本稿では、地方中小企業の事業承継における二つの主要な手段である「相続」と「M&A」について、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら解説します。

1. 相続による事業承継のメリットとデメリット

相続とは、経営者が死亡した際にその保有する資産や株式を法定相続人が受け継ぐ制度です。中小企業では、子どもなど親族への承継が一般的ですが、近年では後継者難により相続による承継が困難となってきています。

メリット

  • 経営の連続性が保たれる:親族が経営を引き継ぐことで、従業員や取引先との信頼関係が維持されやすく、社内外に混乱を生じにくい。
  • 企業文化の維持:長年築いてきた企業の理念や文化を継承しやすい。
  • 承継準備の自由度が高い:後継者の育成を計画的に行うことで、事業承継の成功率が高まる。

デメリット

  • 相続税の負担:企業価値が高い場合、相続税が重く、納税資金の確保が困難になることがある。
  • 後継者の不在または不適合:親族内に経営者としての適性を持つ人材がいない、または承継に消極的な場合、企業の継続が難しくなる。
  • 株式の分散リスク:複数の相続人が株式を取得することで、経営の意思決定が複雑化する恐れがある。

2. M&Aによる事業承継のメリットとデメリット

M&Aは、企業の経営権を第三者に譲渡することで、事業の継続を図る手段です。地方では、地元企業や都市部の企業、個人投資家などへの売却が選択肢となります。

メリット

  • 後継者問題の解消:親族や社内に後継者がいない場合でも、外部に譲渡することで事業継続が可能となる。
  • 従業員・取引先の雇用と取引の継続:適切な買い手に引き継がれることで、雇用や取引関係を維持しやすい。
  • 資産の現金化:企業を売却することで、経営者はまとまった資金を得ることができ、相続対策にも有効。
  • 専門的な経営力の導入:買収側が経営ノウハウや資金力を持つ場合、企業の発展につながる可能性がある。

デメリット

  • 買い手探しの難しさ:地方の中小企業は規模や収益性の面で買い手が限られ、成約までに時間がかかることがある。
  • 従業員や取引先の不安:外部への譲渡により、企業文化の変化や雇用条件の見直しが不安要因となる場合がある。
  • 情報漏洩リスク:M&Aの過程で機密情報が外部に漏れるリスクがある。
  • 経営権の完全喪失:M&A成立後、創業者や家族が経営に関与できなくなる場合が多い。

3. 地方特有の事情と事業承継の選択

地方の中小企業では、地域に根差した取引関係や従業員の長期雇用、家族的な経営スタイルが特徴です。このような企業においては、相続とM&Aのいずれが適切かはケースバイケースです。

たとえば、地域貢献を重視し、家族経営を続けたい場合は相続による承継が望ましいでしょう。一方で、後継者がいない、あるいは企業の成長や存続に外部の力が必要とされる場合には、M&Aを積極的に活用することが求められます。

また、近年では「第三者承継支援センター」などの公的機関や、地域金融機関によるM&A支援が強化されており、以前よりもM&Aのハードルは下がりつつあります。

4. まとめ

地方中小企業の事業承継において、「相続」と「M&A」はそれぞれにメリットとデメリットがあり、企業の状況や経営者の意向に応じて選択されるべきです。相続では家族的経営の継続が可能である一方、税負担や後継者の問題があります。M&Aは事業の継続性や資産の現金化という点で有効ですが、買い手探しや企業文化の維持が課題となります。

円滑な事業承継のためには、早期からの準備と外部専門家の活用が不可欠です。企業の将来と地域社会への影響を見据え、最適な承継手段を選ぶことが、持続可能な経営と地域の活力維持につながるでしょう。

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