近年、地方中小企業の経営者の高齢化と後継者不在が進む中で、事業承継の支援を目的として金融機関が非上場株式を取得するケースが増えています。しかし、その後の出口戦略、すなわち株式の「受け皿」をどうするかという問題が大きな課題となっています。地方中小企業の非上場株式を金融機関が保有することの背景と、その受け皿問題について解説します。
1. 金融機関による非上場株式の保有の背景
地方中小企業では、経営者の高齢化に伴う事業承継の必要性が増しているものの、後継者不在により廃業を選択するケースも多く見られます。これに対して、地域金融機関は地域経済の担い手である企業の存続を図るため、暫定的に株式を引き取ることで事業承継をサポートする取り組みを行っています。
また、経済産業省や金融庁はこうした取り組みを後押しする政策を打ち出し、事業承継支援ファンドや中小企業活性化協議会との連携も進められています。その結果、地銀や信金が非上場株式を保有するケースが年々増加しているのが現状です。
2. 非上場株式の受け皿問題とは
非上場株式は流動性が低く、証券市場での売買ができないため、保有者が望んだタイミングで売却することが難しい資産です。金融機関が一時的に取得するにしても、長期間保有することは本来の銀行業務の範囲を超え、経営上もリスクとなり得ます。
そのため、金融機関が引き取った株式を将来的に引き継ぐ「受け皿」をいかに用意するかが課題です。受け皿が確保できなければ、金融機関は本来の目的である一時的な支援を超えて、継続的な経営関与を余儀なくされる恐れがあります。
3. 受け皿の具体的な課題
(1) 地元での後継者不在
多くの地方中小企業では、親族内に後継者が不在であるだけでなく、社内からも適任者を確保できないケースが目立ちます。また、M&Aを通じて外部から経営者を迎えようとしても、地方企業の魅力や将来性を見出しにくいと判断される場合もあり、買い手を見つけるのが困難です。
(2) 金融機関の継続保有リスク
銀行法においても、金融機関の株式保有には一定の制限があるため、長期間の保有は規制上の問題を生じかねません。また、経営への影響力を有することで、万一その企業が業績不振に陥った場合、金融機関のレピュテーションや財務にも悪影響を与えるリスクがあります。
(3) 専門的な出口戦略の不在
ファンドやM&Aアドバイザーと連携して次の買い手を探す方法もありますが、地方ではそうしたネットワークや人材が都市部ほど整備されておらず、出口戦略が後手に回ることが多いのが実情です。
4. 受け皿問題への対応策
このような課題を解決するには、以下のような対応が求められます。
(1) 官民連携ファンドの活用
中小企業基盤整備機構などが出資する官民連携型の承継ファンドを活用し、金融機関が保有する株式を一時的に受け入れる仕組みを整備することで、受け皿の安定性を確保できます。これにより、最終的なM&Aの出口までの時間を稼ぐことが可能となります。
(2) 第三者承継支援の強化
事業引継ぎ支援センター等を通じた後継者マッチングの精度向上や、企業オーナーの早期相談促進など、第三者承継を円滑にするためのインフラ整備が必要です。また、地域外人材(U・Iターン者やプロ経営者)へのアプローチも視野に入れるべきです。
(3) 金融機関自身のガバナンス強化
金融機関が株式を保有する場合、経営関与の程度を明確に定め、必要に応じて取締役を派遣するなどのガバナンスを整備することが重要です。受け皿が見つかるまでの期間限定で経営支援に徹しつつ、長期保有リスクを最小限にとどめる方針が求められます。
(4) 非上場株式市場の整備
日本では非上場株式の流通市場が未成熟ですが、近年は「私募取引市場」や「地域株式市場」の整備に向けた議論も進んでいます。こうした仕組みが本格的に運用されることで、流動性の向上と受け皿の多様化が期待されます。
5. まとめ
金融機関が地方中小企業の非上場株式を保有することは、地域経済の持続に資する支援策である一方で、受け皿の確保という深刻な課題をはらんでいます。特に、後継者不在、M&A市場の未整備、ガバナンスリスクといった要素が複合的に絡むため、単一の手法では解決が難しい問題です。
今後は、官民連携による支援体制の強化や非上場株式市場の整備を通じて、金融機関が安心して一時的な支援役割を果たせる環境を整えることが急務です。また、企業オーナーに対しては早期の承継計画策定を促し、相続やM&Aといった多様な選択肢を視野に入れた承継支援のあり方を、地域全体で模索していく必要があります。
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